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公安ちゃん

Author:公安ちゃん
ムジチの音楽活動の紹介や日々の生活の話題を提供しています。ブログを通じて、読者との憩いの広場になれば、うれしいです。

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『母の思い出:第六十二話「大学合格電報」』
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大学入学試験は、次の年の3月初旬に行われた。大きなミスもなかったように思ったが、雲をつかむようなものだ。落ちる気もしなかったが、受かる気もしなかった。1週間後に、合否の電報を頼んでいた。その頃になると、そわそわとして、落ち着かなかった。
 ある日の夕方暗くなってから、「電報です!」と言う声が、玄関から聞こえた。皆が一斉に駆け寄った。誰かが電報の封を切ったが、姉が「マスマス ゴベンガクヲ イノル」のところを読んで、「あーあ、落ちたんじゃわ。」と力なく言った。私は、自分では、電文をよう読まなかった。しかし、誰かが最初から全文を読むと、「ハエアル ゴウカクヲ シュクシ」とある。皆から歓声が上がった。合格したのだ。よく見れば、何のことはない。電報の紙袋には、赤紙に白い鶴が飛んでいるでは、ないか。「良かった、良かった」と、抱き合って喜んだ。母は、座り込んで涙ぐんでいた。父は、何かそわそわしていた。私は、まだ夢を見ているようで、宙に浮いたような感じだった。信じられない気がした。本当に、電報に誤りはないのだろうかと思ったりもした。
 
壁掛け電話


大阪の兄や近親者に電話する事になった。当時は、まだ家に電話はなくて、近所の精米屋さんの家に行って、電話を借りた。柱に掛かっている受話器を取って、父がうわずった声で報告していた。大阪の兄には、私が直接電話した。皆が、「良かった、良かった、おめでとう。安堵したね。」と言ってくれた。
 大方の人に連絡が付き、歩いて父と二人で帰る時に、父はこう言った。「自分の力だけで受かったと思ったらいかんぞ。」それは、天狗にならないようにと言う、私への戒めの言葉だったのだろう。
 しばらくして、大学より正式な合格通知や入学手続き等の書類が送られてきたのだった。ようやく、これは夢ではなく、現実のことなのだと、しみじみとかみしめるように、自分に言い聞かせた。母は、生前いつもでも言っていた。「自分の人生の中で、あの時程嬉しいことはなかった。」と。自分の生家が町医者であったこともあり、息子を医者にさせることが、悲願であっただろう。私には、口にこそ出さなかったが、母の思いをひしひしと感じていたのである。戦後の混乱期を生き抜き、貧困の中で5人兄弟を育てる困窮の日々にあって、それが、唯一の希望であったに違いない。その夢が叶えられた事で、今までの苦労が報われたと言う思い。
 その合格電報を、母は、長らく大事にしまっていてくれたようだ。80歳を過ぎた頃だったか、「この電報は、自分で大事に保管して置きなさい。」と私に、渡してくれた。それから、私も、今でも赤紙の鶴の飛んだ一枚の電報を、引き出しの奥に大事にしまっている。

      (シリーズ:『母の思い出』終わり。)

 
 



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